AWARD受賞歴
景観賞-北栗の家
CONCEPT
この住宅は田園風景の古くからの集落の中にあり、敷地の南には明治以前から受け継がれてきた庭と太くて大きな松などの庭木が残っています。西側の道路は長年舗装を繰り返され高くなっていて、南側の道路との高低差が80cmほどあります。このような敷地条件から敷地を高い方に合わせてフラットに造成するのではなく、この高低差を敷地内で緩やかな勾配として処理し、南側にRC造のスラブで持ち出したテラスを配置し高い位置から庭を眺める事ができるように計画いたしました。
建物本体のプランは耐震性と意匠性を考慮し、高さを低く抑え平面形はシンプルな正方形の平面形となっていて、屋根もそれに合わせ方形屋根としています。
また、平屋の欠点である夏場の屋根からの日射熱をかわすため、屋根断熱とした小屋裏収納を設けて、その空間を断熱層として利用しています。
外壁には水に強い厚板に加工した木曽のサワラ材を、柱、梁、垂木などには県産材のヒノキ材を使用しているため、軒の出を1.2mとし、風雨にさらされにくいように計画し、木の持つ独特の経年変化を楽しめる落ち着いた和モダンの雰囲気となっています。その深い軒は夏場に日影を作り、冬には太陽高度が低くなるため光を室内に取り入れ、温熱環境を穏やかに調整しています。
また、南のサンルームは木製のガラス入り框引戸によって、夏は解放しテラスとして、冬場は閉め切りサンルームとして使用することができます。その屋根の一部にはトップライトを設け、深い軒の欠点である暗さを解消し、サンルームを介して室内に光を取り入れています。その光と風が通り抜けるサンルームからリビングがつながり、北側の和室や寝
室へ風が抜けるようプランニングしています。
それによって夏場は深い軒により日影を通って抜ける風が心地よく、冬場はサンルームに受けた太陽の光で暖かめられた空気を取り入れる、季節ごとの暑さ寒さを完全に遮断するのではなく、中と外の空間を穏やかにつないで季節を感じながら過ごせる住宅となっています。
COMMENT
本日はこの名誉ある賞をいただき誠にありがとうございます。
所有者であり、設計者であり、施工者である伊藤でございます。
受賞者を代表いたしまして私の思いを述べさせていただきたいと思います。
今回我が家の建て替えにあたり、「北栗の家」という名前にもある「島立北栗」という昔ながらの田園地帯の集落にあって変化していく景観にいかにマッチする事ができるかを数年前から構想を巡らせてまいりました。
建物については平屋で高さをできるだけ低く抑え、軒の出を深くして老後の運動のために家の周囲を回遊できるように考えていました。庭の計画については当初は道路との高低差があったため、既存の庭木を伐採し池も埋め立てて、新たに造成した庭を造ることも考えておりました。
しかしふと、今ある高低差と井戸からの流水を活かす事で、苔のあるせせらぎをテラスから見下ろす庭として造ったら素敵だなと考えるようになり、既存の庭を活かす方向で進んでいきました。
その庭を囲む曲がりくねった道路沿いの大谷石の塀は、地震で崩れやすい部分を撤去し、石垣から上を木のルーバーで外からも程よく庭が見えるようにしています。
そして南の角にある我が家の変遷を見つめてきたシンボルツリーである赤松の大木は、最近増えている松くい虫の被害にあわないよう、市の補助を受けて樹幹注入をしたおかげで枯れずに、これからもこの集落の時代を見守ってくれると思います。
今回の自宅の建て替えにあたって、古いものをすべて壊して作り変えるのは簡単ですが、受け継がれてきたものを現代風に工夫して受け継いでいく事の楽しさ知ることができました。
設計・施工者の立場からするとすべてのものを利用できるとは限りませんが、次の世代に良いものは残し、負担にならないように改良していく事で、その風景はより一層よくなっていくと思います。
この度の受賞を励みとして今後景観に対する意識をより一層高めていきたいと思います。
本日はありがとうございました。